最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)327号 判決 1949年7月23日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人大津山定起の上告趣意第一點について。
しかし、酒類製造につき政府の免許を受けない者の製造したアルコール含有飲料品が往々にしてメタノール等の有毒物を含有し人の生命健康に有害危險なものがあることは既に公知の事実である。從って飲食物の販賣を業とする者は正規の配給所から買入れたものでない等酒類製造免許を受けた者の製造したものであることが明でない酒精含有飲料品を飲用に供する目的で他に讓渡する場合には豫め化学的檢査を受けその有毒でないことを確かめる業務上の注意義務があることは條理上當然のことである。本件において被告人が判示アルコールを買受ける際賣渡人の藤井が所論のように本件アルコールは絶對に大丈夫であると云ったことを信用したり、これを試飲したりしたことは前記の注意義務を果たしたことにはならない、また被告人は家族が多く生計の餘裕なく窮迫の状態にあったからと云ってかかる危險なものを業務上必要な注意も拂わないで他に讓渡して差支えないことにはならないし又被告人にその注意義務を果たすことが期待不可能であると認めることはできない。そして右の如き條理上當然の注意義務のあることについては證據を必要としないのであるから原判決がその證據を示さなかったことは當然である。論旨は獨自の見解から右注意義務の存在を否定し且原判決の事実の認定を非難するものに外ならないから到底採用に値いしない。
同第二點について。
しかし、懲役と罰金とを併科すべき被告人の情状は必ずしも具體的に判決に明示することを要するものではない。原判決は被告人に對し懲役と罰金を併科すべき情状ありと認めて併科しているのであるから所論は結局量刑不當の主張に歸するのであって上告適法の理由とならない。
よって刑訴施行法第二條舊刑訴第四四六條により主文の通り判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)